NAMAC事務局 吉田 幹夫
先のコラム「海外航空機クラスター事情 ①ドイツ連邦共和国」に続く第二弾カナダ編をお送りします。カナダ連邦政府(オタワ)、ケベック州政府(モントリオール)、カナダ航空宇宙工業会(AIAC) (オタワ)、MHI Canada及びMHI Canadaの近郊サプライヤー3社(ミサシガ)とMRO会社1社(バンクーバー)を訪問したので、クラスター事情とは異なりますが、調査結果を以下に示します。
カナダの航空宇宙産業について
カナダの航空宇宙産業には、ボンバルディア・エアロスペース社を筆頭に約700社の企業が航空宇宙事業に携わっています。そのうち約650社が中小企業で、これら中小企業に航空機事業専門は少なく、ほとんどが他事業も手掛けているとのことでした。また、AERO Montrealがあるカナダ東部では製造・組立が盛んで、西部ではMROが盛んであるという特徴もあります。
政府の中小企業支援
カナダ連邦政府とケベック州政府は中小企業向けの支援を実施しており、AIACは航空機産業の代表として政府に働きかけて中小企業支援策を作っています。今回訪問した企業の中には、政府の補助金など支援策を活用したところもありました。
https://aiac.ca/our-mission-statement/
●インダストリー4.0への移行支援…人手不足解消の1手段として注目。
https://www.aeromontreal.ca/mach-fab-40_en.html
●M&Aの支援…企業規模拡大により雇用拡大、開発力向上、投資拡大・リスク低減
●輸出拡大の支援…BtoB企画、費用補助(展示会出展、認証取得・国際基準順守活動)
●イノベーション支援…技術開発支援。カナダ国立研究機構(NRC: National Research Council Canada)活用
https://www.ic.gc.ca/eic/site/125.nsf/eng/home
●人材育成支援・労働力強化…移民政策、若者と女性の航空機産業への就業拡大
訪問企業
1. MHI Canada(ミサシガ) https://aiac.ca/members/mhi-canada-aerospace-inc/
従業員800名(出身国は70ヶ国)でボンバルディア社ビジネスジェット機のGlobal5000/6000(月産5機、過去最大7機)、Challenger350(月産5機、過去最大7機)の主翼、胴体を製造しています。
●MHI名古屋で担当していたボンバルディア社向けワークパッケージを、艤装から主要構造組立、サブ組立と順次段階的にカナダへ移管し、現在ではその大部分をMHIカナダで独立的に行うに至った。今後の目標としてこれら以外のカスタマー及びワークステートメントの取り込みも目指している。
●現在のサプライヤーは約70社。(カナダ、アメリカ、メキシコ、イギリス、フランス、ルーマニア、モロッコ、チュニジア、日本)
●日本の中小企業がサプライヤーになるには、新規プログラムを始める時がねらい目。(逆に言えば現状のサプライチェーンに日本企業が入り込む可能性は低い。)
●組立てにはGEMCOR社製自動打鋲機、胴体用自動穿孔機、機体を治具ごと運搬する大型AGV等で自動化、機械化を進めている。
●工場や事務所には従業員が壁に直接描いた絵があったり、また、カフェテリアには出身国の70ヵ国の旗が飾ってあったりと従業員の会社への帰属意識を高める意図を感じた。
2. MHI Canada(ミサシガ)の近郊サプライヤー3社
Centra Industries、Koss Aerospace、AVCORPの3社を訪問しました。いずれも、カナダ国内外に顧客とサプライチェーンを持つ世界レベルのTier2企業です。
2.1 Centra Industries https://www.pccaero.com/companies/centra/
Centra Industries社は2012年にPCC(Precision Castparts Corp.)が買収した会社で、PPCはグループの成長を規模拡大(M&A)、内部成長(工場整理・統合・再編)、最適化(IT活用等による工場間最適化)とステージに分けて戦略的に進めています。
Centra IndustriesはBoeing、Lockheed Martin、Northrop Grumman、Spirit AeroSystems、MHI、Bombardier向けにチタンを含む機械加工部品、サブ組立品(翼胴フェアリングフレーム)を製造しています。
●PPCのフラッグシップ的工場として親会社のPCCが積極的に設備投資している。
●メタルのスペシャリストとして複合材には手を出さない会社方針。
●航空機事業が100%。以前はBoeing一辺倒だったが、顧客を増やしてきてBoeingは75~80%になっている。(顧客ポートフォリオの多様化)
●ボーイングと共同開発した自動ロボットでフェアリングフレームにナットプレートの自動取り付け(シーラント塗布も含む)を実施。
●現場にはステータスボードが部署毎に設置され、各部署の現場リーダーが情報をアップデート、マネージャーが現場ウォークでそれをチェックしている。(現場リーダーがステータスと問題点(Help Need)を説明し、マネージャーがその問題点を解決するスタイル。ボーイングがやっていることとまったく同じ。)
2.2 Koss Aerospace http://kossaerospace.com/Default.aspx
もともとMcDonnell Douglasの部品製造からスタートし、現在は機体構造部品を対象とした金属部品加工、サブ組立を主に行っており、ショットピーニング、表面処理、熱処理、NDI、塗装も自社内で実施しています。
●主な製品は主翼リブでA350の主翼後縁リブ組立も製造。
●エンジン部品は複雑すぎるのでターゲットには考えていない。
●Boeing、Bombardier、Airbus、Gulfstream等、顧客の多角化を進めている。
●コスト競争力維持・向上のための設備投資に積極的で、ドイツ製の8パレットある最新MC機を導入しており、機械をセル化して少人数で多数のMC機をコントロールできるように工夫している。
●より大型で複雑な組立品にも対応できる能力と、専門のアルミ以外の金属にも対応できる能力の向上を目標としている。
2.3 AVCORP https://www.avcorp.com/
航空機コンポーネント製造、複合材部品の設計・開発・製造、コンポーネント修理の会社です。
●ASI: AVCORP Structures & Integration(カナダBC州)、AVCORP Composite Fabrication(アメリカCA州、元Hitco社)、COMTEK(カナダON州)の3拠点あり。
●F35の主翼を初め防衛関連コンポーネント、民間大型機・小型機・ビジネスジェットのコンポーネントを製造。
●メタルボンド技術は得意技術の一つであり、15年前にホンダの和光研究所が調査に来たことがあるとのこと。(ホンダジェットに結び付いているらしい。)
●会社方針として、小回りが利いてカスタマーの要望に素早く対応できるということを上げている。
●顧客の近くで生産することを重視。ボーイングへは車で2時間の距離なので、毎朝6時にジャストインタイムで納品を行っている。
●CH47はKHI、日飛と同じ部位を製造しており、日本政府の防衛装備移転三原則により、協業の可能性があると考えている。
●日本のクラスターと面談したことは何度かある(担当VPは日本語が少し話せた。)が、最終責任を負う会社が決まっていない等でビジネスの話まで進むことは、ほとんどなかった。(インターネットで「日本人は4Lだ。」という記事を読んだことがあります。日本人が来ても、 見て(Look)、聞いて(Listen)、学んで(Learn)、帰るだけ(Leave)、でビジネスの話にならない、という意味だそうです。B2Bでも技術紹介で終わってビジネスの話が出てこないことが多い、と感じています。日本人の習性?教育?のせいなのでしょうか?)
3. MTU Canada(バンクーバー) https://www.mtu.de/company/mtu-worldwide/mtu-maintenance-canada/
MTUはドイツがベースの航空エンジンンを専門に扱う製造、MROの会社です。
●民需OEMが33%、防需OEMが9%、MROが58%。
●「Let’s shape the future together!」のスローガンが示すように、他社との協業に積極的な姿勢を示す。
MTU CanadaはMTUグループの一つでエンジンとアクセサリの修理、オーバーホール、テストを実施しています。
●ハノーバー工場、珠海工場の稼働が一杯になってきており、カナダの施設拡張が決定された。
●現状は90%が民需であるが、ビジネスサイクル安定化のために民:防の比率を6:4にしたい考え。
●BCIT (British Columbia Institute of Technology)の学生はMTU Canadaで18ヵ月のインターンシップを行って、そのまま就職するケースも多い。
●「Canada’s Top Employers for Young People」100社の一つに選出され、カナダの若者に人気のある企業として認識されている。 https://www.canadastop100.com/young_people/
訪問した企業5社に共通していること
訪問した民間企業はすでに航空機製造業界で長年の経験があり、規模も大きく、成功している企業と言えます。会社の説明では、共通して以下の事が述べられていました。
●スケジュール(納期遵守)、品質、コストの3つを最重要視。
●人材確保、教育・トレーニングとコミュニケーションも重視。
●自社の成長戦略にそった積極的な設備投資を展開。(設備があるから仕事が来る、の考え方)
●組合が無いことがメリット。(フレキシブルな人員配置で24時間稼働や週7日操業が容易)
AVCORP社の日本に寄せる姿勢やカナダ国立研究機構(NRC)が海外初の事務所を日本に開設するなどからわかるように、日本企業との協業拡大に注力しています。日本の中小企業がカナダの企業と協業して、彼らの力を借りて力をつけていくことも一つのやり方としてあるのではないか、と考えます。
カナダ国立研究機構(NRC) 在日事務: https://nrc.canada.ca/en/research-development/nrc-facilities/national-research-council-canada-japan-office