NAMAC事務局 羽中田 実
過日掲載致しました、ドイツ・カナダに関する調査状況に続き、今回はフランスについてご紹介します。
1.フランスの航空宇宙産業の現状
皆さんにもなじみの深い、エアバス、ダッソー、タレス、サフラン等のOEMをフランスは有しており、売上げ規模も€65.4B(約7.8兆円/2018年)あり、輸出の割合が多く、この産業に係る人員は約190,000人となります。中堅企業(SMEs)によるクラスターは全国で約10団体が形成されています。(ちなみに、日本航空宇宙工業会の資料では日本の航空宇宙産業の2018年での売上規模は約2.1兆円、人員は約35,900人となります。)
(出典:GIFAS/フランス航空宇宙工業会 Annual Report2018/2019より)
2.中堅企業(SMEs)を含むサプライチェーンへの施策
航空宇宙産業はフランスの主要産業の一つであり、フランスのOEM、GIFAS、それに政府などが連携して、サプライチェーン強化の施策が立案・実行されています。具体的には5つの施策が実施されており、以下はその概略となります。
①品質と納期達成能力の改善。400社の中堅企業(SMEs)が政府、GIFAS等から補助を得て研修を受けています。納期の改善効果は大きく、エアバス社等で高い評価を得ています。
➁航空宇宙産業の世界規模での技術革新への参加。政府や場合によってはEU(欧州連合)の研究開発プログラムへの参加、フランス航空当局(DGAC)との共同で運行部門に関するプログラムへの参加、OEMの製品プログラムへ参加するための技術工程表(TRL:Technical Readiness Level)の策定 、サプライチェーン参加の最低要件の策定等があります。
➂中堅企業(SMEs)の経営者による会社の将来戦略検討。約60社が地方政府、GIFAS等から補助を受け、1年間の研修を受けるプログラムです。
④サプライチェーンの工場やプロセスで必要となるデジタルトランスフォーメーションの能力を持たせる施策。約300社がインダストリー4.0に向けて取り組むものです。
➄サプライチェーンの国際化。OEMの世界拠点やGIFASによる独自拠点を開設(モントリオール、クアラルンプール、アブダビ、ニューデリー)の活用となります。
なお、フランスでは航空当局(DGAC)が日本での経済産業省による産業政策の実施と国土交通省航空局による安全規制の実施の両方を兼ねて行っています。
また、航空宇宙産業はフランスの主要輸出品の一つであり、サプライチェーンの国際化は大きな課題の一つとなっています。コストダウンのための海外進出だけでなく、購入国によるオフセット要求に対応するための海外進出との側面もあります。(注:オフセットとは標準的な契約と異なり、製品またはサービス購入の条件として、何らかの形での経済活動が売却者から購入者の国に移転することが要求される契約を指します。)
3.フランスの航空宇宙産業関連の教育システム
フランスで注目すべきポイントの一つに、航空宇宙産業へ人材を供給するための教育システムが確立されていることです。以下、御紹介します。(参考資料2より抜粋・改変)
①ISAE (High Institute of Aeronautics and Space )について
航空宇宙エンジニアの高等教育機関。予算規模は約6,000万ユーロ(約75億円)で仏国政府からの補助は約3,400万ユーロ(約43億円)となる。職員は約540名で教員は約100人となる。1,700人の学生がおり、30%は留学生となります。1,100人が学部相当課程、400人が修士課程、225人が博士課程に在籍し、海外の教育機関とは、日本での東京大学との提携を含む23か国の81の大学等と提携しています。
➁ENAC (French Civil Aviation Academy )について
1949年に前身の教育機関がパリに設立され、1968年にツールーズへ移り、その後に幾つかの教育機関との統合を経て2011年に現在の姿となりました。3,000人の学生がおり、留学生は950人になります。パイロット、航空管制、航空宇宙工学を3本柱とした教育プログラムがあり、専門分野ごとに学位が取れ、近年はMBAコースも設けています。パイロットコースでは年間で800人が学んでおり、120機の航空機も持ち、場所は仏国内の別の場所で飛行訓練も含めて行われています。各学科とも3年間の課程で卒業後はエアライン、航空機産業、航空当局等へ就職しています。
➂BTS (Airbus University and Technical Education College )について
エアバス社のフランスのリース事業所にある私立の教育機関。同国文部省とも協力し、メカニック、機械加工作業者、航空機工学関係等のコースがあります。フランスの学歴資格であるプロフェショナルバカロレアが取得できる職業訓練校で、学習期間は3年間となり、転職希望者や失業者の教育訓練も行っています。卒業生は現在約400人/年であり、今までに5,000人の卒業生がおり、3,000人がエアバス社で働いています。また、教員にはエアバス社からの出向者もいます。
4.フランスの航空宇宙産業クラスター
最後にフランスの航空機クラスターについて幾つかご紹介します。全国には約10のクラスターが形成されており、下図にはそののなかで特徴的なクラスターが示されています。
(出典:GIFASプレゼン(2018/12)資料より抜粋)
●ASTechはパリ地区を中心としたクラスターです。
(WEB https://www.pole-astech.org/web/site/index.php?lang=en)
●Aerospace Valley はエアバスの拠点であるツールーズを支えるクラスターです。
(WEB https://www.aerospace-valley.com/en)
●Safe はセキュリテー分野に特化したクラスターで近年に新たに形成されています。
(WEB https://www.safecluster.com/?lang=en)
紙面の都合で、詳細は省略しております。これらの各クラスターのHPは英語での記載がありますので、のぞいて見てください。
技術革新への対応には中堅企業(SMEs)の発想や柔軟性が必要な点も多くあり、航空機電動化、UAV(無人機)、Additive(3Dプリンター)関連の中堅企業(SMEs)企業がOEMと連携して新しい分野に挑戦する事例も見られます。以下は、2018年12月のWe Areグループ傘下のFarella社見学のレポート(抜粋)となります。
(We Are グループ傘下のFarella社見学)
同社はエアバス社より精密加工品とAdditive(3Dプリンター)製品の受託を行っている会社で、ツールーズ市内から車で30分ほどの郊外に工場があります。精密加工品はエアバスA300タイプの部品から納入を始めており、長年の取引関係を保っている。2019年2月には新工場へ移転する予定です。
Additive製品については2014年より開発を始めた。最初の部品は既に納めているが、エアバス社からの認証に18か月と約30万米ドル(約3,300万円)の費用がかかった。将来的にはこの認証期間の短縮と費用を2万米ドル(約220万円)/アイテムにしていくこととし、Additiveに使うパウダーはエアバス社の唯一の認定供給元であるカナダのメーカーより購入している。エアバス社は36アイテムの品目につきAdditive製品を導入する計画があり、Farella社は12アイテムにつき請負っている。推測だが残りの24アイテムはドイツと米国の競争相手に12アイテムずつ出されていると思うとのこと。開発費、設備費等の費用は自己負担であり、政府や地元自治体からの補助は無い。インコネル用とチタニウム用とがあり、素材別の専用機としていた。
5.まとめ
航空宇宙産業はフランスの重要な産業であり、OEMや航空当局(DGAC)だけでなく幅広く関係者が関与し、産業発展に取組んでいることがご理解いただければ幸いです。紙面の都合で限られた情報しか記載できていませんが、参考文献(特に一つ目のJETROには詳細な情報があります)を今後の御参考にしていただきたく記載しました。
参考文献
1. 日本貿易振興機構(JETRO)パリ事務所 欧州航空機産業調査【フランス】(2019年3月)
2. 日本航空宇宙工業会 HP掲載 会報「航空と宇宙」バックナンバー
2019年1月号 国際航空宇宙展2018TOKYO (JA2018Tokyo)「基調講演・特別講演」
2019年2月号 第6回日仏航空産業協力に関するワークショップ
2019年12月号 第7回日仏航空産業協力に関するワークショップ
3. GIFAS(フランス航空宇宙工業会)Annual Report 2018/2019