• 2021.02.25
  • コラム

航空機部品製造の改善活動について

・ネクスト・サポート(代表)
・全国航空機クラスター・ネットワーク(登録専門家)
・グローバル・ネットワーク協議会(分野別エキスパート)
・神戸エアロネットワーク(連携コーディネータ)
・公益法人)新産業創造研究機構 航空機・航空エンジン総括部(プロジェクト・アドバイザー)
赤 信彦

*はじめに

現在は、グローバル化、格差社会、コロナ対策、米中経済摩擦等と極めて複雑で課題の多い社会情勢であるが、本稿では、これまでの航空機部品製造の改善活動を中心に述べる。

一般的に製造業の評価ポイントは、QCDSE(Q:品質、C:コスト、D:納期、S:安全、E:環境)である。
QCDは、企業の競争力の基本要素であり、利益、売上拡大の直接要素である。SEは企業の社会的信頼性の要素であり、S:労働者・顧客を危険から守ること、E:カーボンニュートラル等の環境問題は、どちらも更に重要となってきている。

航空機関係部品は加工する工程の内容、順序は工程表に加工指示書として明確に定義され、一度加工した工程の内容、加工順序、加工条件は初回検査が合格すれば‘’工程凍結‘’ され、品質確保される。しかし、コストダウン等のため、工程変更が必要な場合は、提案書を提出し承認後、初回検査を合格すれば正式に採用される。

航空機部品は、機能面、品質面では規格で定義されているが、“ものづくり” 面では、世界の多くの企業が「トヨタ生産方式」を基本としており、改善活動、システム化の概要を自社に合わせ運用している。基本システムを見直し、パワーアップする良い機会である。

 

  1. 改善項目:

    1. 職場レイアウトの見直し
      航空機部品は、機体、エンジン、装備品、電子・電気関係と範囲は広く、生産量、部品の特性により  生産体制は異なるが、基本例を述べる。

      1. バッチ式職場:少量生産
        1. 試作・開発部品加工、手作業・自動化しにくい部品は、高いスキルを要する作業が多く、同機能の設備を並べ、作業者が動きやすくする場合が多い。
        2. 試作が完了し、加工プロセスが確立すれば、効果/投資の比率が高く、部品製造におけるハンドリング、手作業のロボット化を検討し、生産効率を向上させる。

      2. セル式職場:中量生産
        1. 部品形状、主要工程の流れが類似している複数の部品を集結、共通工程をライン化し、整流化された加工の流れを作り、連続加工を実施し、生産効率を向上させる。
        2. 更に、ハンドリング、手作業のロボット化等を検討し自働化を図り、ライン作業者は、各自の作業の平準化を実施し、省人化を図る。

      3. ライン式職場:中量、大量生産
        1. 部品形状、工程の流れが、ほぼ一致している加工部品を集結し、共通工程をライン化し、整流化された加工の流れを作り、連続加工を実施し、生産効率を向上させる。
        2. 治工具を共通化し、段取り時間の低減を図る。
        3. 更に、ハンドリング、手作業のロボット化等を検討し自働化を図り、ライン作業者は、各自の作業の平準化を実施し、省人化を図る。

    2.  生産管理面の見直し
      1. 品質確保のため、前回と同じ設備で加工するため、整流化された加工ラインで、加工の流れが見える生産計画とする。特定の設備(ライン)に負荷が集中する場合は、アウトソース、設備増強も事前検討する。

      2. 最小限の資源(人、材料、設備)、投資で、最適な品質、コスト、納期を確保し、人、設備、の増強計画、材料、補材の入手計画を実施し平準化する。

      3. 毎年、契約更新される新単価に対し、工数、加工時間、リードタイム等を標準値として登録する。生産個数を考慮し、標準値と実績値の差が大きい部品、工程を優先し工数、加工時間の改善を計画、指示する。新年度の売上計画、操業度計画(人、設備)、材料・補材の購入計画、入金計画をたて、平準化を実施する。

      4. ライン化されていない部品、職場は加工待ち時間が多くなる傾向があり、加工能力(アウトソース、設備、人員)の調整・平準化を行う。必要により加工スケジュールに実績の待ち時間を考慮する。

    3. コストダウン
      1. システム化
        見積書作成時に、顧客から提示された図面、仕様書に基づき加工時間(機械、作業員)、加工用治工具、標準リードタイム、生産数量によりタクトタイム、加工サイクルタイム、必要設備台数、作業人員数、工程表を設定し、部品ごとにデータベースを作成し、受注ロット毎に、個々の標準値と実績値を比較集計するシステムを作成する。小規模であれば、エクセルで集計し、実績と標準値の予実リストを作成し生産性を評価し、生産数も考慮し改善が必要な部品、工程を摘出し改善する。改善対策は類似部品にも適用できる場合も多いので横展開する。標準時間は定期的に更新する。

      2. IoT、AI
        広い意味では、サプライチェーンの進捗状況、不具合データ等の生産状況をリアルタイムに、参照でき問題点の分析をする。生産計画でも、納期、不具合、キャシュフロー等を考慮し問題解決型のシステムも今後期待される。

    4. 品質確保
      1. 不具合発生件数、不具合理由、補修工数、不具合による損失を、受注ロット毎に集計できるシステムを作成する。不具合の発生頻度、対策コストを考慮し、改善ターゲット部品、工程を摘出し改善する。改善対策は類似部品にも適用できる場合も多いので横展開する。

      2. 計測制度の向上のための手法として「ゲージR&R(繰り返し性と再現性)分析」を紹介する。
        本分析は以下の視点で行う。
        1. 繰り返し性: 測定システムの変動のうち、どの程度が測定装置によって引き起こされているか。
        2. 再現性: 測定システムの変動のうち、どの程度が測定者間の差によって引き起こされているか。
        3. 測定システムの変動が工程変動に比べて小さいかどうか。
        4. 測定システムには、異なる部品間の違いを識別する能力があるかどうか。
        5. ゲージR&R分析は、各検査者による同じ部品の測定値が一貫しているかどうか(繰り返し性)、および検査者間の変動が一貫しているかどうか(再現性)を示す。

    5. 安全に関して
      1. JIS規格、労動安全衛生法等に基づき、危険作業を行う場合の保護具、保護設備の設置、定期点検を実施し、事故の発生率ゼロを目指す。

      2. 事故の発生内容、原因、職場、作業内容、被害状況等のデータベースを作成し、発生頻度の高い作業内容、職場、原因を摘出しミーティング等で注意を促す。労働安全衛生法等に順守しているか、全ての職場を定期的にパトロールする。

    6. 環境に関して
      1. 環境マネジメントシステム(JISQ14001)、各種法律、条令等に基づき、廃棄物(種類、量、廃棄業者、廃棄場所等)、消費エネルギー(種類、量等)のデータベースを作成し、改善対象、数値化した改善目標をグループ(職場)毎にリストアップし、定期的に評価する。

      2. ESG(環境、社会、ガバナンス)、SDGs等は、世界的な活動として展開されている。
        ビジネスとしても実施され、サプライチェーンにも要求しているメーカーもある。

    7. 加工条件の改善(サイクルタイムの改善)
      1. 自動化
        1. 段取り工数低減:治工具を標準化し段取り工数を削減する。
        2. ライン化し、「標準作業組み合わせ票」を作成し作業を平準化し、オペレータの省人化を行う。
        3. ロボット、NC設備を有効利用し更に無人化に挑戦する。

      2. 高速加工
        1. 特に、難削材に関し刃具材質、高圧クーラント、治工具の剛性等を検討し、加工時間を短縮する。

      3. 標準作業組合せ作業を見直し多台持ちを推進する。


  2. 改善チームの作成:

    1. トップを含め全員参加の活動体制とし、従業員の改善意識や経営者意識の育成も行う。
      全従業員の教育スケジュールの計画、実績表を作成し開示する。

    2. 職場を主とする改善チーム、部品を主とする改善チーム等、縦方向、横方向のチームを作成し、定期的に発表会を開催し表彰する。


  3. まとめ:

    1. 改善活動の基本原則は、PLAN、DO、CHECK、ACTIONのサイクルを定期的に回し続ける事であり「ものづくり」の永遠の課題である。

    2. これまでの「ものづくり」方式は、QCD中心であったが、今後さらに環境面の要求が拡大し、それ自体がビジネス化していく。

    3. コスト競争の激化、格差社会の拡大の中、IoT、AIを用いた製造システムは、海外企業との競争、協調も含め、改善ではなく、新しい発想の‘’改革‘’レベルのシステムが必要となる。


*あとがき

産業革命以降、アダム・スミス、ケインズ、サミュエルソン、ハイエク、フリードマン等聡明な経済学者が、大きな経済危機を建て直してきた。現在は、新自由主義、グローバル化の副作用である、コスト競争の激化、格差社会の拡大のため米国をはじめとし、景気は低迷している。

コロナ問題、日米の政治リーダー交代等、不確実の課題が多いが、カーボンニュートラルの自動車、航空機は10年後には一般的になり、デジタル技術は日進月歩し、国連のSDGsは10年間の活動目標を提示し、新しい社会に変わろうとしている。経済社会も新しい時代の到来が期待される。